研究目的

 日本では、労働安全衛生法に基づき、常時使用する労働者の健康状態を把握し、労働時間の短縮や作業転換等の事後措置を行うことによって、脳・心臓疾患の発症防止や生活習慣病等の増悪防止を図ることなどを目的として定期健康診断(一般健康診断)を実施することが、事業者に義務付けられています。昨今、労働力の高齢化や長時間労働への対応の必要性、特定健康診査やストレスチェック制度の開始など、労働者の健康管理を取り巻く環境が変化しており、それらに応じた見直しが図られる必要があります。
 そのような状況を背景に、厚生労働省では平成28年2月から「労働安全衛生法に基づく定期健康診断のあり方検討会」を開催して検討を重ね、同年12月に報告書が取りまとめられました。その中で、労働安全衛生規則第45条に基づく特定業務従事者への健康診断の対象業務の妥当性など、今後検討すべき課題が提示されました。そこで本研究では、検討会で提示された諸課題と関連して、以下の3項目について、それぞれに目標を定めて検討を行うことにしました。
1.「有所見の基準」
定期健康診断の目的を前提とした“有所見”の定義の選択肢を示し、各健診項目に関してその定義にあった数値基準や所見基準のコンセンサス調査の結果を明らかにします。また、定義ごとに、コンセンサス調査の結果を基準とした場合の労働者全体(年齢・性別)に占める割合を算出します。
2. 「特定業務従事者健診の対象業務」
事例の収集および質問紙調査等で実態を明らかにします。そのうえで、特定業務従事者健診の意義、事後措置のあり方を専門家によるフォーカスグループディスカッション(FGD)を行い想定される対象業務を抽出して、対象業務についてデルファイ法によるコンセンサス調査を行って対象業務候補を提示します。また、同健診の歴史的な背景も明らかにします。その上で、「特定業務従事者健診の対象業務」について、あり方を検討します。
3. 「既往歴の聴取」
文献調査および個別事例の収集を行うとともに、労働衛生機関における既往歴の聴取状況についても確認します。そのうえで、FGDによって事業者が安全配慮義務を果たしたり、労働者の健康の保持増進を目的としたりした場合の聴取すべき既往歴(服薬歴や喫煙歴を含む)の基本的考え方を整理します。また、既往歴は機微な個人情報であることより、法的および倫理的側面からの検討を併せて行います。それらの検討の結果をもとに「既往歴の聴取」に関するガイドを作成します。